今日も走り続ける-PRESENT

日本一のバスへ、
職員の気概

生活に身近な東京の移動手段として、日々走り続ける都営バス。
毎日当たり前のように
運行しているように見えても、
実はその裏では職員達の様々な
苦労や気配りがあります。
そこで今回、現役の乗務員、
事務職、整備士を一堂に集め、
職員ならではの裏話や
あるある話を聞いてみました。

近藤助役運輸事務

1991年入局。8年間の乗務経験後、運輸事務職員に転職。各営業所で運行管理業務を歴任

吉岡助役運輸事務

2012年入局。7年間の乗務経験後、運輸事務職員に転職。運行管理業務を担当後、安全担当助役として現在に至る。

高野主事自動車運転

2016年入局。

吉岡主事自動車運転

2021年入局。

佐藤グループリーダー交通技能

2013年入局。2023年度よりグループリーダーとして日々の整備の他、後進の指導も担当。

渡邉主事交通技能

2023年入局。職場内師弟制度では佐藤グループリーダーの指導の下、日々技術を習得中。

1 業務の裏話と思わずやってしまう習慣
― 同じ都営バスでも、乗務員、事務、整備士では、仕事の役割や内容は大きく違います。それぞれの職務で考えていることや、思わずやってしまう習慣などはありますか?
整備工場で作業する渡邊さん

渡邉そもそも私が都営バスに入ったのは、中学校の職場体験で都営バスの営業所を訪れてすごく楽しかったからなんです。そこから工業高校を経て都営バスの技能職(整備担当)として入局しました。学生時代は気づきませんでしたが、整備の仕事を始めてから「これは何年にできたバスだ」と気にするようになりましたね。あとは「この乗務員さんは丁寧に声かけしてくれるな」とか「全員が座るまで待ってから発車してくれるんだ」とか、そういう細かい部分にまで目がいくようになりました。当たり前のようでいて、実はとても気を配っていてくれたんだなと感じるようになりました。

整備工場で作業する渡邊さん

佐藤私は都営バスに入る前も含めて整備の仕事に就いて25年になりますが、職業柄、やっぱり機械を見ると知的好奇心が刺激されて、中身の構造がどうなっているのか確認したくなりますね。特に壊れた物を見ると、一度バラシて修理したくなる(笑)。実際に子どものおもちゃを修理したこともあります。整備担当にはそういう人が多くて、「スマホを自分で修理しようとして煙が出てきて焦った~」なんて言っている仲間もいました(笑)。あとはプライベートでバスに乗ったときに、内装や設備を思わず見てしまう時もあります。

吉岡(自動車運転。以下(自))それはありますね。僕もバスに乗りながら乗客数や客層をつい確認しちゃいます。

吉岡(運輸事務。以下(事))私は7年間乗務員として勤めた後、今は事務で事故対応をしているんですが、事故が起きたときは反射的に過失割合を考えてしまう癖がつきましたね。『判例タイムズ』っていう事故の統計表に、過失の割合が全部載っているんですけど、それを開いて「なるほど、この場合は過失割合が7:3から始まるのか……」とか、すぐに確認することもしばしば。特にお盆休みとか年末年始といった長い休み明けは、事故処理対応に追われることが多いんです。だから、自分のデスクの上に事故に関する書類がないか、休み明けはドキドキしながら出勤しています。

判例タイムズ
板金で綺麗に整形修理された
バンパー(下)と修理前(上)

佐藤整備の場合はある意味腕の見せ所なんで、修理が必要な車両がくると逆に燃えるところはあるかも(笑)。「これは板金でやろうかな」とか、どうやればいちばんきれいに直せるかすぐに考えます。特に自分が扱ったことのない車両は、試行錯誤しながら直すので楽しいですね。

板金で綺麗に整形修理された
バンパー(下)と修理前(上)

近藤私も運輸事務職になる前に8年間乗務員をやっていたから、今でもバスに乗ったときは、運転手さんのブレーキのかけ方が気になるんだよね。特に最後の抜きの部分。ブレーキをかけた後、最後にペダルを踏む力をすっと抜くと滑らかに停車できるんです。自家用車を運転するときは、今でも自然に抜いたりしているよ。

高野でも今は、バスもほとんどオートマ車じゃないですか。マニュアルだとスムーズにブレーキングしやすいんですけど、オートマはシフトダウンで段階的に減速していくから難しくないですか?

近藤そうそう。だからここが、運転手の技量の差がいちばん出るポイントなんだよ。下手な人は、車体がガックンガックン揺れるから、お客さんが酔ちゃって顔がだんだん青ざめていく(笑)。これは練習あるのみです。

2 お気に入りから厄介者まで…記憶に残っている車種・路線
― ブレーキの話が出ましたが、車種によって、運転の操作性や乗り心地が変わるなんてこともあるのでしょうか?

近藤メーカーによって癖があったり、操作のコツが全然違ったりというのは確かにあります。もう30年以上昔の話ですけど、乗務員時代に乗った日産ディーゼルの天然ガス車は、3速が全然伸びなくて苦労しました(笑)。それで乗務員から不評を買ってしまって、最終的には「海02」(国際展示場駅~東京港フェリーターミナルの路線:2003年に廃止)という、お客さんの少ない路線の専用車になっていたな。

日産ディーゼルの天然ガス車
日産ディーゼルの天然ガス車
燃料電池バス

高野昔に比べると、今はどの車両も運転しやすいと思います。特に6~7年前から出てきた燃料電池バスは、普通のバスに比べて走りやすい。加速もスムーズですし、満員でもパワーが全然落ちずに、回送のときと同じくらいの状態で走れますから。

燃料電池バス

近藤それこそ昔は、エアコンを切らないと坂を登らないような車両もいっぱいあったんだから。エアコンを切ったところで、実際はそんなに変わらないから気持ちの問題なんだけどさ(笑)。特に屈辱的だったのは、自分が乗務員時代の都03、04、05の勝どき橋ね。当時は、営業所ごとに特定のメーカーの車両が割り当てられていて、杉並担当の都03は「日野」、江東担当の都04は「日産ディーゼル」、深川担当の都05は「いすゞ」といった具合にね。それで運行中に、勝どき橋のたもとで各営業所の車両が一列に並ぶことがよくあったんだけど、同時に発進しても、必ずいすゞだけ置いていかれたもんだよ……。

高野今でも古い三菱車はエアコンの効きが悪くないですか?食事休憩で1時間離れて帰ってくると、車内の温度が40℃くらいになっていて、そこからエアコンをかけても中々下がらないんですよね。

佐藤真夏で車体が熱されているときは効きが悪いですね。エアコンの温度は、運転席の吹き出し口で測っているんですけど、そこだと正常な冷風がちゃんと出るんですよ。でも、日光で車体の鉄板がアチアチになってると、車両の後方にいくまでに冷風が温められて、客席で測ると28℃くらいになっちゃうこともあります。

吉岡(自)その場合は、午後に出庫する前に、一度洗車機に入れて車体を冷やすしかないですね。

吉岡(事)車両の癖に振り回されるのは乗務員あるあるですね(笑)。僕が乗務員をしていたときは、毎日割り振られる車両が違ったんです。ただ、特に嫌いな車両はなかったですね。それぞれの癖を見抜いて、どう乗りこなすか考えるのが楽しかった。ただ、お客様を安全に心地良く運ぶことには、すごく気を遣いました。巣鴨(営業所)の路線で、特に前の乗務員とバスが満員の状態のまま運転を路上交替したときは、1発目のブレーキを踏むのがめちゃくちゃ怖かった(笑)。雑に踏めば、転倒事故につながりかねませんから。本当は緊張しているんだけど、お客様を不安にさせないように、どう落ち着いて振る舞うかみたいなことを毎日考えて運転していました。

― 路線も、走りやすい路線とそうでない路線があったりするんですか?

近藤私は長い路線が好きでした。特に、今のスカイツリーがある場所から新橋までいく路線(業10)や、昔の「海01」(門前仲町からお台場、そして首都高を通って品川駅東口までいく路線)は好きだったな。あの路線を今の新しい車両で走れたら、気持ちがいいだろうなあと思いますよ。逆に苦手だったのは、運行回数が多い路線。1日に何回も同じ景色を見ることになるので、やっぱり飽きてきちゃって(笑)。

昭和から平成に変わる頃の銀座を走る業10
昭和50年代の首都高速湾岸線東京港トンネルを走る海01
吉岡(自)さんの仕事の相棒:
乗務中に着用する腕時計(ご家族からの就職祝い)

吉岡(自)苦手というか、やっぱり色々なバスが往来する路線は気を張りますね。バス停に止まったときに、さまざまなお客様から「(施設名で)〇〇へは行きますか?」と聞かれるんです。ただ、本当に申し訳ないんですけど、運転手も自分の路線以外のことは詳しいわけではないんです。だから「ちょっとわからないですね」とか「次にきたバスの運転手さんに聞いてください」って言うしかないときもあって……。さらに最近は海外のお客様も増えていて、外国語で質問されると結構焦ります(笑)。そんなときは、お客様のスマホに表示されているバスの系統番号を、ジェスチャーや指差しで案内するようにしています。

吉岡(自)さんの仕事の相棒:
乗務中に着用する腕時計(ご家族からの就職祝い)
3 未来について語り合う、みんなでつくる日本一の都営バス
― 最後に、皆さんが都営バスの一員として守っていきたいこと、これから叶えていきたいことを教えてください

高野僕たち乗務員の仕事は、決められた時間にバス停に到着して、予定通り安全にお客様を目的地まで届けること。お客様が「やって当たり前」と思うことを、確実に実行することが仕事だと思っています。 「何も起こらない」ことが満点で、そこからいかに減点を少なくするかということに意識を向けていますね。だから予定通りにお客様を届けられたときは、自分の中で大きな達成感があります。安全を崩さず守ることに、常に責任感をもっていたいと思います。

吉岡(事)さんの仕事の相棒:
安全指導で使用する仕事道具

吉岡(事)私は都営バスに入って、すごく人に恵まれたなと感じているので、次の世代にも働きやすい環境を残せるように人材育成に力を入れていきたいです。あとはやっぱり安全を守ること。これにはお客様だけでなく、乗務員の安全も含まれます。重大人身事故が起これば、被害者の方だけでなく乗務員にも辛い思いをさせてしまうので。今後もそういう乗務員を出さないように、事故防止の啓発活動や乗務員教育をしっかりやっていきたいです。

吉岡(事)さんの仕事の相棒:
安全指導で使用する仕事道具
佐藤さんの仕事の相棒:
愛用品の点検ハンマーでメンテナンスを行う

佐藤それは整備も同じ気持ちですね。事故を起こさないためにも、車両の故障はないに越したことはありません。毎日気を抜かずにメンテナンスや修理を続けていきたいです。

佐藤さんの仕事の相棒:
愛用品の点検ハンマーでメンテナンスを行う

渡邉私はまだできないことが多いので、それを1日でも早くできるようにすることが当面の目標でしょうか。未熟でも、営業所の一員に加わっているので、一人前の働きができるように頑張りたいです。

佐藤(渡邉は)今は自分で完璧に修理することよりも、「もしかしたら故障してるかも?」っていうグレーの部分を見つけられることが、いちばん重要だと思っています。その点ではすごく助かっているよ。

渡邉最近、汚れの違いやエンジンオイルの漏れとかは、何となくわかるようになってきました。

佐藤弟子の成長はやっぱり見ていて楽しいですよ!

渡邉いつも助けていただいています(笑)。失敗しても「これはこうすればいいよ」と優しく教えてくださるので、落ち込みすぎず反省を次に生かすことができます。あと、入局する前は「結構力仕事だろうな」って覚悟していたんですけど、工具や設備が充実していて、力がなくてもスムーズに作業できることが意外でした。女性でも働きやすい職場だと思います。

吉岡(自)私が都営バスに入ったのは、給与や保障といった労働環境が日本一だと思ったからです。だからほかにもバスの運転手の募集はありましたが、都営バス一本に絞って応募しました。

近藤実際に都営バスは日本一だと思うよ。今は120系統で1日あたり約60万人を運んでいるけど、自分が入局した当時は100万人近く運んでいたこともあった。900系統持っている他社さんよりも、多くのお客様を乗せているんだよね。首都圏で暮らす人々にこれだけ貢献している仕事って、中々ないんじゃないかな。これからは乗車人数だけでなく、安全やサービスでも日本一になれるようにしていきたいね。

吉岡(自)そうですね。今はバスの運転手に対して、給料が安いとか労働時間が長いといったネガティブな印象を持っている人も少なくないかもしれませんが、すごくやりがいの大きい仕事だと僕は思っています。都営バスという“いいもの”をずっと続けていけるように頑張りたいです。

近藤乗務員の吉岡さんや高野さんは、直接お客様と触れ合う立場にいるから、「かっこいい」でも「素晴らしい」でも「優しい」でも、何かお客様に誠意が伝わるように頑張ってほしいな。そのためにも運輸事務や整備担当が裏方で支えていくから。みんなで胸を張って仕事をしていこう!

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