
蔵前には、地域に愛されているお店が沢山ある。シノノメ製パン所もその一つ。お店の目印は食パンを持った木製のくまさん。そして、ふわっと鼻腔をくすぐる焼きたてのパンの香り。扉をくぐる前から気持ちがほくほくする。
一歩足を踏み入れると、どこか異国に迷い込んだような不思議な心地。タイルの柄まで愛らしいこの店内はDIYで形にしたという。アンティークなカウンターには、常に30種類前後の幅広いラインナップのパンが並んでおり、見ているだけでもわくわくしてくる。
看板メニューの「エッグタルト」は眺めているだけで、その美しい造形に甘いため息がでてしまう。薔薇の花弁のように細やかに折り重なる層。そのパリパリの先に、とろっとしたアパレイユ。濃密だけど控えめな甘さは大人の嗜み。なんと翌日でも、リベイクせずにこの食感が楽しめたり、冷凍してアイスのように楽しむことも…。手土産にとても重宝しそうだ。

a. クラフィン 450円、
b. あんバターフランス 400円、
c. アップルパイ 500円
私が特に驚いたのは、はじめましての「クラフィン」。もはや背徳感すら湧いてくるパリパリのクロワッサン生地と内側のふんわか優しい生地のコントラスト。そして、バターの香りとともになだれ込むとろーりほろ苦い自家製キャラメルソースとナッツの食感。次から次へと湧いてくる幸せサプライズの往復ビンタに、思わず目尻がさがる(クラフィンは季節によってクリームが変わります。取材時は「塩キャラメルナッツ」)。
自家製のアップルフィリングと手間暇かけて折り込まれた模様がキュートな「アップルパイ」、北海道産の小豆を利用した自家製のつぶあんが贅沢にサンドされている「あんバターフランス」…など、一つ一つ丁寧に作られたパンはどれも魅力的で選ぶのが大変だ。
食べ終わった頃、身体がじんわりと温かい。科学的うんぬんでもの申すと、小麦は体を冷やすなんて言うけれど、本当に気持ちがこもってるものは、文字通り温度が通うのだと気づいた日。
とても素敵な食べ物に出会った時は、良い小説を読んでいる時のように、丁寧に、ゆっくり、目の前にある今だけを嚙み締められる。終わりが近づくとちょっぴり寂しくもなる。でも、またこの幸せを味わうために、日常を歩いていこうとも思えるから、シノノメ製パン所のパンは、私たちの日々のお守りなのかもしれない。


- シノノメ製パン所シノノメせいパンじょ
- 住所:東京都台東区蔵前4-35-2
- 営業時間:12:00 ~18:00(売り切れ次第クローズ)
- 定休日:日曜
- アクセス:都営大江戸線「蔵前」駅A5出口または都営浅草線「蔵前」駅A0出口から徒歩7分/都営バス[都02]「寿三丁目」から徒歩2分
- HP:http://www.fromafar-tokyo.com/toppage
Instagram:https://www.instagram.com/shinonome_pan/

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- 村田倫子Rinko Murata
- @rinco1023
- アパレルブランド「idem」のディレクターとして多数の商品プロデュースを手がける他、ファッション雑誌をはじめ、大型ファッションショー・ラジオ・広告への出演、自らのコラム執筆など幅広い活動を行っている。Instagramのフォロワー数は37.8万人。