都営文字の世界 〜東京さくらトラム(都電荒川線) 荒川車庫 編
第1回受け継がれる美意識
整備の注意を促す看板の文字の中には「職員の手書き」で書かれているものもあります。デザイナーではなく、職員自ら、その都度書いてきました。どの文字も古く、最初に書かれたのがいつだったのか、誰が書いたのかもわかりません。少なくとも最初に書いた人はもうここにはいません。
文字をよくみると、それぞれの書体に特徴があります。より注意を引くため、明朝体の「うろこ」と呼ばれる飾り部分をうねったように強調することで注意を喚起していたり(写真1)、うろこと縦画・横画(タテ線・ヨコ線)との強弱を激しくつけたり(写真2)と場所にあわせて変化しています。
整備場の文字の多くは職員の手書きです(写真3)。どの文字も個性的で、文字デザインによって注意喚起を行いたいという書いた人の狙いが出ています。その狙いは、新たな看板を書く職員によって受け継がれています。時間が経ち薄くボケてしまった輪郭線を別の職員が引き直し、その上に着彩している文字があります(写真4)。文字の輪郭を再現する際に、ラインが甘くなり、偶然ながら独特のラインが生まれています。
まるで、先代の秘伝のタレを守るように、何度も繰り返し書き足されて残った独特な看板の文字。その作業は、意図して生まれるものではなく、「必要なものは自分で作る。作ったものは後輩に受け継ぐ」という都営交通の職員に自然に身についた習慣が作り出した文字なのです。