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連載 都営文字の世界 〜車両番号 編
写真: 第3回 手書きとトレースがつくった丸み「車両番号の文字」

第3回手書きとトレースがつくった丸み「車両番号の文字」

電車の車体に使われている数字は、各鉄道会社で同じ書体を見かけることがあります。一方、都営交通の中では微妙に形が異なっている文字がみられます。さまざまな場面で出会うタイポグラフィティを紹介する本企画の第3回目は、「車両番号の文字」について取り上げます。

国が鉄道を運営していた国鉄時代、駅や鉄道の書体を統一しようという動きがありました。現在も使われている車両番号の数字は、その時に開発された「貨車標記文字」がもとになっています(写真1)。この国鉄文字が、各鉄道事業者に共有され、代々使われてきました。鉄道会社が変わった現在でも、当時と同じ書体を使うことになったのです。

当時はまだデザイン作成のためのコンピューターが普及しておらず、車両番号の制作は人の手で行われました。サイズの異なる寸法つきの図面があり、それをもとに板を加工する銘版屋(めいばんや)が番号を拡大縮小して車両の数字を作っていました。

人が手作業で行うため、図面からのトレースの工程や金属加工の工程で、どうしてもばらつきが発生します。図面を拡大したり縮小したりを繰り返しながら金属板に写すため、太さが変わってしまったり、線が変形してしまったりすることも。金属を切り抜き、研磨する段階でも人の手でやっていたため、角の丸みが物によって違っていました。使われる素材や制作方法の違いによって、微差が生じたのです。

また、初期デザインの段階で筆を用いた手書きを想定していたため、筆による角R(角の丸み)ができました。また、トレースした金属板から文字を切り出す工程で、ドリルなどの回転する歯で切り抜くため、ドリルの径の丸み分だけ、角に丸みが出やすくなったのかもしれません。

角が丸いほうが、機能面ではメリットが多いです。貼り付けた文字は、電車の車体よりも出っ張っているため、角が尖っていると、整備の際に作業員の衣服や掃除用のモップなどが引っかかりやすくなります。また、ホームドアがない駅で、万が一お客さまが車体に接触することになった場合にも、角が丸い方が安全性が高いのです。

現在は、元となる図面をトレースしたアウトラインデータを使用しています(写真2)。パソコンで打ち込む際に使えるような「フォント」にはなっていません。最近では、カッティングシート(フィルム)を使うことも多く、コンピューターで制御しカッティングを行うこともあります。

一見、車両番号は平面的な文字と見られがちです。しかし、これらの文字は立体造作物です。電車というプロダクトの一部といってもいいでしょう。図面をトレースして転写し、切り抜いて、角を研磨し、電車に貼り付ける。立体造作物であることの制作工程が、自然と文字の独特な丸みを生み出してきたのです。

(写真1)
昭和17(1942)年、車両や線路など鉄道の規定を記した「最新客貨車關係法規便覧」に「貨車標記文字」として車両番号が登場します。(出典:国会図書館デジタルコレクション)
車両に使うさまざまな文字のサイズや規定が記されています。また、数字だけでなくカタカナも同時に規定されました。
(写真2)
現在使われている車両番号のアウトラインデータ。(出典:株式会社 総合車両製作所)
(写真3)
カッティングシート(フィルム)を用いた車両番号。
(写真4)
金属板を切り出して貼り付けた車両番号。
(写真5)
カッティングシート(フィルム)を貼った金属板を貼り付けたパターン。
(写真6)
都電では、手書きの車両番号も多く見られます。
(写真7)
やや長体(縦長)がかかっている文字もあります。

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