
青木淳さんに都営交通を巡っていただき、その使われ方を考察していただくこの連載。今回は、東京さくらトラム(都電荒川線)の停留場のベンチがテーマ。そのありうべき姿を、4回にわたってお届けします。
第4回手すり基礎一体型ベンチ「都電の腰掛」設置

ーー(都電荒川線町屋二丁目停留場にて)できましたね。
青木淳さん「できましたね。」
ーーご覧になられていかがですか?
青木淳さん「馴染んでますね。いわゆるデザインというのは、他のものをノイズとして排除してしまう、極端にいうと人が座ってない方がキレイとか、そういうこともある。でも、このベンチは柵やそこの張り紙にも溶け込んでますね。色も風化すれば落ち着いて停留場と同じようになる。」


ーーあ、いま(お客様が)座られましたね。
青木淳さん「なんの違和感もなく、当然座るという感じで座られましたね。意外にも真ん中じゃなくて端に座られました。で、立ち上がるときにどうされるか。」
ーーおお。手すりに、ちょっと触られましたね。
青木淳さん「手すりがあるから安心して立ち上がれますね。握るまででなくても、ちょっと触れるだけでもいい。足腰の状態など人によって使われ方は違いますね。」
ーー高さもちょうど良さそうですね。ちょっと座って、ちょっとすると立ち上がるのにいい高さ。お年寄りも足がちゃんとついているし。通る人を邪魔しない。
青木淳さん「高さはうまくいったような気がします。42cm。」


ーー端に座ってもたわまず、ガッシリしていますね。
青木淳さん「木の厚みのおかげですね。無垢の厚板だと高価だし割れや反りも心配だったので、間伐材でつくれる小径の角材を4本束ねて、通しています。傷ついたらその一本だけを取り替えることもできます。」
ーーヒノキの白木が美しいですね。
青木淳さん「雨などで風化はしないけれども、日には焼けていきます。どういう色になっていくか楽しみですね。」


ーー大きな建築ができてそれを見に行くのと、こういうベンチを見るのとではまた違いますね。
青木淳さん「そうですね。ほんのちょっと変わるだけで人と空間の関係は大きく変わるはず、と常々思っているんですが、その意味でこのように小さなベンチひとつの方がその変化がストレートにわかって楽しいですね。このベンチ、手すりが強調されていて手すりという以上に席の仕切りとも感じられるでしょう。それで今回つくったのは3人掛けバージョンですけれど、真ん中に座ったときと脇の席に座ったときとで自分の領域の感じ方が違う。真ん中だと守られている感じが強いし、脇だと開かれている感じ。見ていると人によって選ぶ席が違いますね。」
ーー元々のベンチは2名用でしたが、同じ空間で3名座れるようになっていますしね。座る順番も見ていると様々ですね。
青木淳さん「ええ。さっきは最初に真ん中におばあさんが座って次の方がその右側に座って、最後の方が左側(先頭側)に座りましたね。ところが、まだ電車が到着していないのに左側に座った方は真ん中の人になにか話しかけて先に立ち上がった。」
ーー電車が来て、自分があとから来たのに先頭なのは気まずいから、列に戻ろうとされたのかもしれませんね。
青木淳さん「かもしれないですね。使っている間に、自然にルールができてくる。世知辛いところだと、順番の確保が大切になるだろうから、きっと左から座っていきますね。でも、ここだと、どこから座ってもいい。ただ、電車が来たらば、一声掛ける。」
ーーあ、どうぞ。(と、おばあさんに席を譲る)
青木淳さん「(隣に座られたおばあさんに)都電はよく乗られるのですか?」
おばあさん「今日は病院まで。」
青木淳さん「この新しいベンチ、いかがですか?」
おばあさん「座りやすいですね。昔はベンチはたくさんあったけれど、今はそうした場所がなかなかなくて......。」



ーーいろんな場所に少しずつ増やしていけるといいですね。さて、せっかくなのでこのベンチに名前をつけたいと思うのですがどんな名前が良いでしょうか。造りでいうと、手すりと基礎が一体というのは世界を見渡しても珍しいでしょうね。使う側でいうと、ちょこっと座ってちょっとすると立ち上がって都電に乗ることが、表現されているといいかなと。
青木淳さん「『腰掛』かな。」
ーーいいですね。茶道の休憩所、腰掛待合のような。
青木淳さん「『都電の腰掛』」
ーーみんな自然と腰掛けていますね。なんというか、まろやかないい時間が流れている気がします。まずは都電荒川線町屋二丁目の停留場の二脚だけですが、少しずついろんなところに設置されていくといいですね。本当に今日はありがとうございました。

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- 青木 淳(あおき じゅん)
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建築家。青木淳建築計画事務所を主宰。青森県立美術館などの公共建築、住宅、一連のルイ・ヴィトンの店舗などの商業施設など、作品は多岐に渡る。1999年日本建築学会賞、2004年度芸術選奨文部科学大臣新人賞などを受賞。主な著書は、『JUN AOKI COMPLETE WORKS Ⅰ:1991-2004』、『同第2巻:青森県立美術館』、『同第3巻:2005-2014』、『原っぱと遊園地』など。